ATTRアミロイドーシスはトランスサイレチン(TTR)を前駆蛋白とするアミロイドーシスで,変異TTRによる遺伝性ATTRアミロイドーシス(旧名:家族性アミロイドポリニューロパチー)と野生型ATTRアミロイドーシス(旧名:老人性全身性アミロイドーシス)に分類される₁).ATTRアミロイドーシスは,従来は比較的稀な疾患と考えられていたが,疾患啓発により,近年診断例が増加している.特に心アミロイドーシスにおいてはATTRアミロイドーシスは最も頻度の高い病型であると考えられ,筆者らの施設における心筋生検で診断された心アミロドーシス患者の約₆₀%を占めている。TTRは生体内では四量体として主に血中および髄液中に存在し,甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T₄)とビタミンA︲レチノール結合蛋白質複合体の輸送を担っている.個々の四量体は常に解離と結合を繰り返しサブユニットを交換しており,生体内には少量の単量体が存在している.TTRがアミロイドを形成するには四量体から単量体への解離と単量体の変性が必要であり,遺伝性ATTRアミロイドーシスにおいては遺伝子変異によりTTR四量体構造が不安定になり,単量体に解離しやすくなることが本質的な病態である。生体内には少量のTTR単量体が存在するため,野生型であってもアミロイドを形成しうる.これまでに,「加齢」と「男性」が野生型ATTRアミロイドーシス発症の危険因子であることが明らかになっているが,その他の遺伝的・環境的因子は不明である.
遺伝性ATTRアミロイドーシスの治療にTTR mRNAを標的とした低分子干渉RNA(siRNA)製剤であるパティシラン(オンパットロ®)₁₅),その他の薬剤が導入された。
野生型ATTRアミロイドーシスは主に高齢者に認められる全身性アミロイドーシスで,変性した野生型TTRが心臓を中心とした全身臓器に沈着する.剖検例の報告では,₈₀歳以上の₁₂~₂₅%₁₇,₁₈),₉₅ 歳以上の₃₇%₁₉)と非常に高率に心臓へのATTRアミロイドの沈着が認められているが,積極的に生前診断されることは少なく,本症の正確な頻度や臨床像は不明な点が多い.核酸医薬は野生型ATTRにも効果を持つことが分かっており、現在治験が進行している。
TTRは脳の脈絡叢や網膜色素上皮細胞でも産生されているため、肝臓で産生されるTTRだけではなく今後は脳と目のアミロイドーシス治療が課題として残っている。