アルツハイマー病(AD)の脳にはアミロイドβの細胞外蓄積(老人斑)とリン酸化タウの神経細胞内蓄積(神経原線維変化; NFT)の2つの病態が存在します。タウ病変は20歳代からはじまる加齢的な側面をもった変化であり、脳梗塞や頭部外傷などはこの病態を促進すると考えられています。個人的には、ボクシングやサッカー、その他ぶつかり形のスポーツなどは、高齢になっての認知症のためにはよくないのではないかと考えてしまいます。さて、アミロイドβの存在が直接的に神経細胞死を招くのではなく、タウ病変を誘発してNFTを引き起こすと推測されています(アミロイドカスケ-ド仮説)。糖尿病や高血圧(動脈硬化)はAD発症の危険因子とされ、アミロイドβの蓄積との関連性が指摘されています。つまり、アミロイドβが増加→タウ蛋白の異常→神経細胞死、という流れです。
もっとも、アミロイドβやタウ蛋白といっても、単一の物質ではなく、複数のバリアントや構造体が存在し、その違いが他の疾患の性質や進行にも影響しています。例えば、パーキンソン病や筋萎縮性硬化症、その他の神経疾患ではそれぞれ別のタイプの異常蛋白が神経外、神経内に蓄積し、その蓄積が別のタンパク質の神経内蓄積や凝集を引き起こしたりなどして神経細胞死を引き起こすことが分かっています。これらの異常蛋白質の出現とそれに引き続いて起こる神経細胞内蛋白の変性と蓄積にはDNAが関与しています。タンパク質は細胞内でDNAを鋳型として作られるからです。それは遺伝ということだけではなく、老化や環境の影響によってDNAが変化するということです。epgenicな要素については定量的な判定は難しいでしょう。
老化を説明する機序の一つとして、細胞内の異常タンパク質の蓄積と、蓄積によって変化したタンパク質がさらに周囲の細胞に感染し進展するということが考えられます。異常タンパク質の種類は多様であり、それぞれの蓄積メカニズムや毒性が異なるため、全ての異常タンパク質を一律に除去することは現実的には困難です。しかし、「感染源となりうる細胞(異常タンパク質が蓄積しやすい細胞や、既に蓄積している細胞)」を早期に除去したり、そのような細胞の密度を下げることで、神経変性疾患や老化の進行を遅らせる可能性は十分に考えられます。実際、前述のように細胞が異常タンパク質を蓄積し始めると、周囲の細胞にもそのタンパク質が伝播・拡散し、細胞死や炎症反応を助長することが示唆されています。また、異常タンパク質の蓄積を防ぐための細胞内分解システム(プロテアソームやオートファジー)や、小胞体関連分解(ERAD)などの仕組みも重要で、これらのシステムがうまく働かない場合、異常タンパク質が蓄積しやすくなります。さらに、免疫細胞やグリア細胞は、異常細胞や死んだ細胞を除去する役割を持ち、これが病変の拡大や進行に影響を与えることが明らかになっています。したがって、「感染源となりうる細胞を早く除去する」または「そのような細胞の密度を下げる」ことは、神経変性疾患や老化の進行を遅らせる新しい治療戦略として注目されてくると思います。