ヒトにだけ感染するウイルスで、主に肝臓に住み着いて肝炎から肝硬変、肝臓がんを引き起こすC型肝炎ウイルスというRNAウイルスがいます。このウイルスは人間に感染することで生き残るように進化したウイルスで、その結果、ヒト以外の生物には感染しにくくなったようです。RNAウイルスなのでヒトのDNA遺伝子には影響を与えず、自身のRNAを利用して特定タンパク質を生成する過程で宿主細胞の正常な機能を乗っ取るような働きをします。これが癌化につながるのですね。RNAウイルスは進化が速いので、継代するにしたがってある宿主に特化した感染力を持つように変化しやすいのです。一方でDNAウイルスはゲノムが安定しており進化がゆっくり進むので種特異的な感染ウイルスにはなりにくいのです。またDNAウイルスのDNAは、宿主のDNAに一部取り込まれたりします。C型肝炎ウイルスRNAを障害するような薬は、DNAウイルスのDNAを障害する薬よりも開発しやすかったのですね。
WHOは、ウイルス性肝炎の新規感染者数を2015年に比べて2030年までに90パーセント減少させ、死亡者数を65パーセント減少させるという目標を掲げています。そのためには診断率を上げて治療介入度をあげる、また注射薬物使用者には年間一人当たり300本の滅菌した注射器を提供するという目標を掲げています。日本ではC形肝炎ウイルス患者の7割が65歳以上です。
さてこの治療ですが、C型肝炎ウイルスのジェノタイプと肝炎の進行度によって投与する薬剤が変わります。RNAの働きを阻害することで効果を発揮する薬剤なのでジェノタイプによって使う種類が変わるのは当然です。また、肝臓の障害程度によって薬剤の分解され方や、薬剤の細胞への届き方が変わるからです。最近ではジェノタイプにかかわらず、また肝炎の進行度にかかわらず使える薬が出てきました。一日一回一錠です。早くC型ウイルス感染症を発見できれば、割と簡単に治療ができその成功率も高いのです。私が医師になったころはC型肝炎ウイルス感染症は長い時間をかけて死に至る悲惨な病気でした。それが今では飲み薬で治る時代です。医学の進歩とともに検診の重要性についても思い知らされます。
blogC型肝炎ウイルスの治療
2025.07.15