一つの腎臓にはろ過装置として糸球体と言われる構造と、それに引き続いてろ過された大量の水分(原尿)が通過する尿細管という管が連続しています。原尿が尿細管を流れるうちに、必要な成分や水分は再度、尿細管やさらにそれに続く集合管から血液中に戻され(再吸収)され最終的に尿として体外に排泄されます。この糸球体と尿細管というろ過装置は、一つの腎臓に約25万個から200万個ずつあるといわれ平均で100万個ずつ存在しています。その数は胎生期に決まっており加齢や病気により数をへらし減ったものは回復しません。40歳から70歳までの間に10%/10年ずつ失われ、70歳以上ではさらに加速されます。したがって腎機能を守るためには、普段からの生活習慣に加えて、医療的にはいかに早く治療を行うかにかかっています。
さて、糖尿病性腎症では尿中に糖が漏れてくるからなのですが、SGLT2の活性が亢進し、近位尿細管でのナトリウムとグルコースの再吸収が増加しています。これにより遠位尿細管のマクラデンサに到達するナトリウム濃度が低下します。マクラデンサは尿中のナトリウム濃度を感知し、低いと判断すると輸入細動脈を拡張させ糸球体内圧を上昇させます。これが糖尿病性腎症での過剰濾過の一因です。そこでSGLT2阻害薬を使うと、SGLT2阻害薬は近位尿細管のナトリウムとグルコースの再吸収を阻害し、マクラデンサに十分なナトリウムが到達するようにします。結果として、マクラデンサがナトリウム不足と誤認しなくなり、輸入細動脈の異常な拡張を抑え、むしろ収縮寄りの正常な状態に戻します。この過程は尿細管糸球体フィードバック(TGF)と呼ばれ、SGLT2阻害薬はこの機構の正常化を促し、糸球体内圧を低下させて腎保護効果を発揮します。またRA系抑制薬も投与しますが、この理由は、RA系はアンジオテンシンIIの作用により糸球体の輸出細動脈(エフェレントアーテリオール)を収縮させ、糸球体内圧を上昇させます。これは長期的に糸球体に負荷をかけて腎機能障害を引き起こします。RA系抑制薬(ACE阻害薬やARB)はアンジオテンシンIIの生成や作用を抑制し、糸球体の輸出細動脈を拡張させることで糸球体内圧を低下させ、糖尿病性腎症などで進行する腎障害を軽減します。これにより尿タンパク排泄が減少し、腎組織の炎症や線維化の進展を抑制します。さらにRA系抑制薬はアルドステロン産生も抑制し、腎臓の慢性的な炎症や組織障害を和らげる効果もあります。ところが長くRA系抑制薬を使うと、アルドステロンブレイクスルーが起こることがあり、MR受容体拮抗薬を使ってこの不具合を解消することもあります。
糖尿病性腎症が進むと糸球体からアルブミンが尿細管に漏れてきます。
1. 尿細管細胞での過剰負荷と障害
正常では尿にほとんどアルブミンは漏れませんが、糸球体の障害によりアルブミンが多量に漏れると、近位尿細管の細胞がこれを再吸収し処理する負荷が増大します。再吸収されたアルブミンは細胞内のリソソームに運ばれて分解されますが、多量になるとリソソームや細胞内分解機構に過剰負荷となり、尿細管細胞の炎症や酸化ストレス、アポトーシス(細胞死)を誘発します。
2. 炎症と線維化の誘発
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アルブミンの再吸収によって尿細管間質に炎症性メディエーター(MCP-1、TGF-βなど)が放出され、腎間質の炎症や線維化が進行します。これが腎組織の構造的破壊と機能低下をもたらし、慢性的な腎不全へとつながります。
3. 腎血管系への影響と悪循環
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アルブミン尿は糸球体のろ過バリアの障害を反映し、その状態が続くと糸球体の血管に負荷がかかり高血圧状態が生じやすくなります。これがさらなる糸球体障害を促進します。
- つまり、腎症を発生進行させるような病態はなるたけ早期に対処し、薬剤による腎機能保護効果を狙ってなるたけ早く治療を開始するのが肝心です。