睡眠は生物個体にとって不利なのに、神経を持つ生物はみな睡眠をとります。地球生命圏全体を一つの生命体とみなし、他の生物に食べられることによってその生命圏を維持するために睡眠があるのかもしれません。しかしながらドーキンスの「利己的な遺伝子」などに照らし合わせると進化は常に「個体(遺伝子)の生存競争」であり、「生態系への奉仕」という目的のために、自らの生存率を下げる形質が選ばれることはありません。
ライオンもネズミも、遺伝子のレベルでは驚くほど似通っており、基本OS(オペレーティングシステム)の共有しているといえます。: 睡眠は、神経系を持つ生物にとって、後から追加された「アプリ」ではなく、生命維持の根幹に関わる「基本OS」の一部です。
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逃れられない制約: たとえ食物連鎖の頂点にいても、「神経細胞を持つ」という基本設計(ハードウェア)を採用している以上、そのメンテナンス(睡眠)という仕様からは逃れられません。 眠らないという「特別な遺伝子は持てない」、だから天敵のいない頂点店捕食者でも睡眠をとるということです。
さらに、「個体の生存(逃げる)」と「生態系への奉仕(寝て食べられる)」は、0か1かのデジタルなスイッチではなく、「天秤(トレードオフ)」の上で揺れ動いています。
もし、ある種の草食動物が「絶対に眠らない(絶対に捕食されない)」という超進化を遂げたとします。 すると何が起きるか?
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個体数が爆発的に増える。
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植物を食べ尽くす。
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飢餓で種ごと全滅する。
つまり、「適度に寝て、適度に捕食される(間引かれる)」という「弱点」を持っている種のほうが、皮肉なことに「種としては長く存続できる」というパラドックスが成立します。
この視点に立てば、「個体の生存競争(利己)」と「生態系への奉仕(利他)」は対極ではなく、同じ円環(サイクル)の表と裏に過ぎません。 その境界は極めてファジーであり、生物は「生き残ろうと足掻くこと」で、結果的に「生態系というシステムの一部」を演じさせられているのかもしれません。次に一つの例を提示します。
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ハリガネムシの話:
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現象: カマキリを操って川に飛び込ませる。
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効果: これがなければ、森の昆虫のエネルギーが川の魚(イワナやヤマメ)に届きません。ある研究では、イワナが得るエネルギーの60%がこの「自殺したカマキリ」由来だったというデータもあります。この現象をわかりやすく人間の社会活動に落とし込んで考察してみます。
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A. 寄生生物による操作 = 「ボーナス(臨時収入)」
ハリガネムシによるエネルギー供給は、季節限定であり、感染するかどうかは運次第です。
システム全体から見れば、これは「景気刺激策(Stimulus Package)」のようなものです。あると生態系が活性化するが、なくてもギリギリ回るかもしれない。不安定な供給源です。
B. 睡眠による無防備化 = 「固定資産税(定額徴収)」
一方で、睡眠には「例外」がありません。すべての個体が毎日必ず数時間、無防備になります。
これは、生態系という国家を運営するための「絶対に逃れられない固定税」のようなものです。
- もし全員が「偶然(感染)」でしか食べられないとしたら?捕食者の食料供給が不安定になり、飢餓で全滅するリスク(システムの崩壊)が高まります。
- 全員が「必然(睡眠)」で隙を見せるとしたら?捕食者は「毎日必ずどこかに隙のある獲物がいる」という計算が立ちます。これにより、安定した個体数の維持が可能になります。つまり「確実な死」の供給が生態系を安定させるということです。
「地球の生物界の維持のためには、「必ず」という普遍性に基づく自己犠牲が必要」という点は、「栄養段階(Trophic Cascade)」の安定性において不可欠です。
- 完全無欠な生物の害悪:もし睡眠がなく、24時間完璧に逃げ回る生物ばかりになったら、エネルギーの流れ(Energy Flow)が滞ります。下位の生物が増えすぎて資源を食い尽くし、上位の生物は餓死します。
- 睡眠というバランサー:「毎日必ず一定割合の個体が無防備になる(=食べられやすくなる)」というルールは、生態系全体の代謝(エネルギーの受け渡し)をスムーズにするための「潤滑油」として機能していると言えます。
- 「なぜ生物はリスクを冒してまで寝るのか(なぜ進化で睡眠が排除されなかったのか)」という謎に対し、「システム(地球)側が、寝ない生物の誕生を許さなかった(寝ない変異種は、システム全体のバランスを崩すため、回り回って淘汰された)」という、ガイア理論的な回答が導き出せます。
- いかがでしょうか。睡眠について夢想してみました。
