どこかで発表した原稿です。
生物はなぜ死ぬか
A マクロの視点 進化と死の関係
死は進化するということ。進化は「変化」して「環境に対する適応」を繰り返すこと。変化(変異)により多様な個体が生まれ、環境に適応できなかった個体は死に、適応できた個体が生き残る。このプロセスが繰り返されることで、生物は進化する。死ななければ進化せず、生命の連続性が維持できない。「死ぬものだけが今、存在している」ということ。
進化をやめて「死なない」という選択肢を取るものは、多くは絶滅したと推察される。地球の環境は変化があるので、長生きするよりも「ちゃんと寿命が決まっていて、世代交代して多様性をいつでも作れるような生物」の方が有利。加えて遺伝子を混ぜ合わせることで親と少し違う子どもを作るようなライフスタイルの生物が、最終的に生き残ってきた。
B ミクロの視点 ゲノムの変異と老化
生物のゲノム(DNAやRNA)は時間の経過とともに変異や損傷を受ける。これらの変異は老化や病気の原因となり、最終的に死に至る。DNAが壊れにくい生物ほど寿命が長く、DNAが頻繁に変異する生物ほど寿命が短い傾向がある。ヒトのDNAは1年に60-70ヶ所しか変異しないのに対し、ハツカネズミではその10倍以上の変異が発生する。
1細胞死とがんの防御
正常な細胞には、異常な増殖やDNA損傷を検出して自ら死ぬためのメカニズム、特にプログラムされた細胞死(アポトーシス)が備わっている。このメカニズムは、がんになりかけた細胞を排除し、がんの発生を防ぐ重要な役割を果たします。例えば、ウイルス感染やDNA損傷を受けた細胞では、アポトーシスが起動してこれらの異常な細胞を排除し体を守る。
2細胞死と免疫システムからの防御
免疫システムにとって最も重要なのは、自己と非自己(異物)を区別すること。病原体などの異物を自己と区別し、異物のみを特異的に攻撃することで、体を病気から守る。この免疫システムができるときに、老化変異した免疫細胞が自己を認識し攻撃してしまわないように細胞死によって排除されることで、免疫システムが「敵」のみを攻撃するようになる。
老化しない生物
老化しない生物は、外的要因(捕食、災害、病気など)による死亡率が低い環境で進化する傾向がある。DNA修復や免疫関連の遺伝子が自然選択を受けて強化されている。老化しない生物では、体サイズが大きく、繁殖力が高い。ロックフィッシュの研究では、体サイズが大きい種ほど最大寿命が長く、加齢とともに繁殖率が増加する傾向が見られた。特に、150歳の個体が1シーズンあたり100万匹以上の子供を産むこともある。これにより、他の生物と比べて多くの後継者を残し、集団内での個体数を維持または増加させることができる。
理論的背景
使い捨て体仮説と拮抗的多面発現説
これらの理論によると、生物個体は次世代に遺伝情報を伝える生殖系列細胞と、生命活動を行う体細胞系列からなる。得られたエネルギーを繁殖に費やすと、体細胞系列への投資が減少し、体の維持や修復が充分にできなくなり、老化が進む。老化しない生物では、体細胞系列への投資が効率的に行われるため、老化が少ない。さらに、若い時期に生存率を高める遺伝子が、高齢になると生存に不利に働くことがあるが、老化しない生物ではこれらのバランスが取れているため、競争力が維持される。
有害変異蓄積説
自然選択は一生に残した子どもの数が多い個体に有利に働くため、加齢後に現れる有害な性質を持つ個体は自然選択によって淘汰されづらい。しかし、老化しない生物では、これらの有害な遺伝子の蓄積が少ないため、競争力が維持される。
生命表と繁殖成功
外的要因による死亡率が低い環境では、老化しない生物は年齢を経てからも高い繁殖率を維持することができる。外的要因による死亡が少ない場合、年齢を経てから子どもを産むことの不利益が減少し、生物個体にとって老化を防ぎ、寿命を延長させる方が、より多くの子どもを残せることが示される。これにより、他の生物と比べて多くの後継者を残し、集団内での個体数を維持または増加させることができる。
