あめのもり内科

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2026.06.14

日本医師会雑誌の6月号のテーマは睡眠時無呼吸でした。その内容を要約しました。

はじめに ―― 「いびきの病気」では終わらない

ご家族の大きないびきや、運転中につい眠くなってしまうこと。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、こうした身近な「睡眠の悩み」として語られることが多い病気です。ところが実際には、SASは心臓や血管、血糖、こころにまで影響を広げる、れっきとした全身の病気でもあります。この記事では、医学の専門誌で各科の医師が解説した内容を手がかりに、SASがどのように体じゅうとつながっているのかを、なるべくやさしくひもといていきます。

まず、SASとはどんな病気なのかを押さえておきましょう。睡眠中に十秒以上、呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返し、そのたびに血液中の酸素が下がり、眠りが細切れになってしまう状態です。原因によっていくつかの型に分けられますが、のど(上気道)がふさがって起こる「閉塞型」が全体のおよそ九割を占めます。注目したいのは患者数です。治療を受けている人が日本に約七十万人いるのに対し、本当は治療したほうがよい人は約九百万人にのぼるとも言われます。つまり、自分が無呼吸だと気づいていない「隠れ無呼吸」の人が、その何倍もいると考えられているのです。だからこそ、どの診療科の医師であっても、患者さんの不調の背景にSASが隠れていないかを意識することが大切になります。

呼吸器の視点 ―― 眠ると呼吸はもろくなる

最初に、呼吸そのものの仕組みから見ていきましょう。私たちの呼吸は、脳の奥にある呼吸中枢が、血液中の酸素や二酸化炭素の量を見張りながら、ちょうどよい換気量を保つように調整しています。起きている間は複数の仕組みが互いを補い合っていますが、眠りに入ると調整役が減り、特に夢を見る「レム睡眠」のときには、息切れを感じ取って呼吸を立て直す働きが最も鈍くなります。さらに、眠っている間も働き続ける呼吸の筋肉は横隔膜くらいで、のどを開いておく筋肉などはゆるんでしまいます。その結果、健康な人でも眠っている間は呼吸の量が一割から一割五分ほど減るのです。

健康な人ならこの程度は問題になりませんが、もともと肺の余力が乏しい人では話が変わります。たとえば、たばこなどが原因で気道がせまくなる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんは、睡眠中、とりわけレム睡眠のときに酸素が大きく下がってしまいます。COPDSASが重なった状態は「オーバーラップ症候群」と呼ばれ、世界的に見て決してまれではありません。低酸素が二重に重なるため、心臓や血管への負担が増し、寿命にも影響すると考えられています。ここで知っておきたい落とし穴が二つあります。一つは、こうした患者さんに酸素を与えるだけだと、かえって無呼吸の時間が延びて二酸化炭素がたまってしまうことがある点。もう一つは、太っている人では肺活量の測り方の関係で検査の数値が良く見えてしまい、隠れたCOPDを見落としやすい点です。喘息も夜から朝にかけて悪化しやすく、重い喘息の人ほどSASを合併しやすいことが分かっています。呼吸器の診療では、昼間の状態だけでなく「夜の呼吸」を診ることが欠かせないのです。

循環器の視点 ―― 夜の無呼吸が心臓と血管をむしばむ

次は心臓と血管との関係です。無呼吸のたびに体は低酸素にさらされ、そこから目覚めるという刺激を繰り返します。すると、興奮の神経である交感神経が高ぶり、血圧が大きく揺さぶられ、胸の中の圧の変化が心臓に負担をかけ、体内に炎症が起こり、血管の内張りが傷んでいきます。これらは夜だけの出来事ではなく、昼間の血圧上昇や動脈硬化の進行につながり、じわじわと心臓・血管の病気のリスクを高めていきます。

実際、多くの心臓病でSASの合併率が高いことが分かっており、なかでも心臓の収縮はある程度保たれているのに症状が出るタイプの心不全では、合併率が約九割にも達するとされます。高血圧については、SASは「他の原因によって起こる高血圧」の代表格の一つで、特に夜間や早朝に血圧が下がらない・上がってしまうタイプは要注意です。こうした血圧の異常は外来の測定では見つけにくいため、家庭での血圧測定が役立ちます。不整脈では、心房がリモデリングと呼ばれる変化を起こして心房細動の引き金になり、無呼吸をきちんと治療することが不整脈の再発予防にもつながると報告されています。心不全では、日中の眠気よりも、夜中の息苦しさや入院の繰り返しといったサインが手がかりになります。やせている人にもSASは起こりますので、体型だけで「この人は大丈夫」と判断してはいけない、という点も大切です。

耳鼻咽喉科の視点 ―― すべては「鼻で呼吸できること」から

のどや鼻を専門とする耳鼻咽喉科は、空気の通り道のスペシャリストです。ここで何度も強調されるのが、鼻呼吸の大切さです。鼻には、吸い込んだ空気を温めて湿らせ、血管や気管支を広げる物質を出し、ほどよい抵抗で呼吸のリズムを整えるという、たくさんの役割があります。ところが鼻がつまって口呼吸が続くと、舌の位置が下がってのどがせまくなり、無呼吸が起こりやすくなります。鼻づまりは、治療装置であるCPAP(鼻に当てたマスクから空気を送り込み、気道を内側から押し広げる機械)が続かなくなる最大の原因でもあります。つまり、鼻の通りを良くしないことには治療がうまく進まないのです。

検査では、薬で軽く眠らせて、のどのどこがどのようにふさがるのかを内視鏡で実際に観察する方法があり、閉塞の場所を正確に見極めることができます。治療は、CPAPが合わない人に対して、鼻やのどの手術、あごの骨を前に動かす手術などが選ばれます。なかでも新しいのが、舌を動かす神経に弱い電気刺激を送り、舌が落ち込んで気道をふさぐのを防ぐ治療です。研究では、無呼吸の回数がおよそ半分に減ったと報告されています。子どもの無呼吸は、扁桃やアデノイドの肥大が主な原因で、症状は眠気よりも落ち着きのなさや不注意といった形で現れることが多いのが特徴です。大人と違って、子どもは手術で根治が期待できるため、鼻で呼吸できるように整え、必要な治療を先延ばしにしないことが、成長や発達を守るうえで重要だとされています。

歯科口腔外科の視点 ―― CPAP以外の道もある

CPAPの対象にならない軽い無呼吸の人にも、歯科という治療の選択肢があります。歯科の治療は、せまくなった空気の通り道を広げて確保することを目的としており、大きく二つに分かれます。一つは、下あごや舌を前に出すように誘導する「口腔内装置」(マウスピースのような器具)です。軽症から中等症の人や、CPAPが使えない人に用いられますが、歯がしっかり残っていることや鼻づまりがないことなどの条件があり、長く使うと噛み合わせが変わることもあるため、歯科医による管理が欠かせません。

もう一つは、あごの骨格を外科的に動かして気道を広げる手術です。上下のあごを同時に前へ動かす方法などがあり、無呼吸の改善率は八割五分以上と高く、小さなあごや噛み合わせの異常がある人では、見た目や噛み合わせまで良くなることもあります。ただし、手術の場所が気道そのものであるため、麻酔のときの気道トラブルや術後の呼吸の管理に細心の注意が必要で、集中治療レベルの体制で行われます。ここで覚えておきたいのは、推定で五百万人もの患者がいるとされる一方で、こうしたマウスピースの利用はごくわずかにとどまっているという現実です。医科と歯科が連携して、適した治療に患者さんを橋渡しすることが求められています。

糖尿病・代謝の視点 ―― 低酸素が全身をめぐる

少し専門的になりますが、糖尿病や代謝の研究は、無呼吸による「途切れがちな低酸素」が、なぜ全身の病気につながるのかを、体の細胞のレベルで説明してくれます。細胞を低酸素にさらす実験から見えてきたのは、その影響が膵臓・肝臓・筋肉・脂肪・神経・血管・免疫と、実に広い範囲に及ぶということです。たとえば、血糖を下げるインスリンを出す膵臓の細胞では、分泌に必要な仕組みが乱れてインスリンが出にくくなります。一方で、肝臓や筋肉、脂肪からは、インスリンを効きにくくしたり炎症を起こしたりする物質が放出されることも分かりました。

おもしろいのは食欲の話です。SASの人には太った人が多いことから「低酸素が食欲を増やして太らせる」と思われがちですが、実験では、むしろ食欲を抑える側の物質が増えており、そう単純な話ではないことが示されました。高血圧については血圧を上げる物質が増える経路が、心臓については守る反応と弱る反応の両面が確認されています。そして最後に、低酸素は免疫の細胞から炎症を起こす物質を出させ、体全体の炎症を悪化させます。こうした一連の変化は、SASを「呼吸の病気から全身の病気へ」と捉え直す、確かな科学的根拠になっているのです。

精神科の視点 ―― こころの不調の陰に隠れる無呼吸

最後に、こころとの関係を見てみましょう。うつ病や不安、統合失調症などをもつ患者さんは、肥満や喫煙、服薬の影響などから、もともとSASになりやすい条件を抱えていることが少なくありません。報告によれば、うつ病の人の約三割六分、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人の四割から七割以上、双極性障害の人の約二割五分にSASが併存するとされます。困るのは、眠気や集中力の低下、気分の波といったSASの症状が、こころの病気そのものの症状と見分けがつきにくく、見逃されやすいことです。

特にうつ病とは、互いに相手を悪化させる関係にあります。SASがあると将来うつ病になりやすく、うつ病があると将来SASになりやすい、というように双方向につながっているのです。不安の強い人では、夜中に息が苦しくなる体験が「窒息するのではないか」という恐怖と結びつき、眠ること自体が不安になってしまうこともあります。また、薬の影響にも注意が必要です。一部の精神科の薬は体重を増やしてSASを悪化させますし、よく使われるベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、呼吸を抑え、のどの筋肉をゆるめ、目覚めの反応を遅らせることで無呼吸を重くするため、SASの人には原則すすめられません。逆に、うつ病とSASを併せもつ人では、抗うつ薬だけでは良くならず、CPAPを併用して初めて気分が改善した例も報告されています。こころの治療がなかなか効かないとき、その陰に無呼吸が隠れていないかを考える視点は、とても重要だといえます。

おわりに ―― 「眠りの問題」を全身への入り口に

ここまで、六つの診療科の視点からSASを見てきました。読み進めると、同じ言葉が何度も登場することに気づきます。「途切れがちな低酸素」「交感神経の高ぶり」「全身の炎症」「互いに悪化させ合う悪循環」「見逃されやすい」。これらこそ、SASが一つの科に収まらない理由を物語っています。眠っている間に繰り返される低酸素と覚醒は、血管にも、血糖にも、脳にも、こころにも影響を及ぼし、そのどれもが互いをさらに悪くしてしまうのです。

そして、どの専門家も最後はほぼ同じ結論にたどり着いていました。SASは特別な病気ではなく、とても身近な病気であること。眠っている間の出来事なので自分では気づきにくいこと。だからこそ、医師の側が「もしかして」と疑い、疑ったらまず検査につなげること。そして一度の検査で終わらせず、長い経過を見ながら、科をまたいで連携していくことが大切だということです。

なかなか下がらない血圧、夜に何度も起きるトイレ、いつまでも治らない咳、薬を飲んでも晴れないうつ症状、じわじわ増える体重――一見ばらばらに見えるこれらの不調の裏に、共通してSASが隠れていることがあります。もし思い当たることがあれば、「ただのいびき」「年のせい」と片づけてしまわず、一度、睡眠について医療機関に相談してみる。それが、見逃されてきた多くの人を適切な治療につなげる、確かな第一歩になるはずです。

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