ひとの体には、体細胞の数を上回る数の腸内細菌が存在しています。昔は、腸内細菌を調べるためには細菌を培養するしかありませんでした。培養できる細菌は実際の細菌種の三割にも満たなかったということがわかっています。今では遺伝子を調べることで、細菌の存在を正確にはかることができるようになったのです。例として、パンダは竹しか食べないのですが、腸内細菌を利用してセルロースを分解していることが判明したとの話がありました。ほかの草食動物を同じ細菌と、パンダに特有な細菌があり、その両方の細菌の力を用いて栄養価の低い竹をエネルギー源として用いることができているということです。
糞便移植という治療がありますが、もとは腸疾患を持つ家畜に健康な個体の糞便を移植すると治る場合があるということが経験的に知られていたため、その効果を人間に応用したものです。人の慢性腸感染症に、クロストリジウムデフィシル感染症による腸炎(CD腸炎)がありますが、しばしば難治性で治療に難渋します。感染性腸炎に安易に抗生物質を使ったために、菌交代現象として出現した二次性腸炎ということが分かっています。このCD腸炎患者に、健康人の糞便移植をすると8割の確率で治療ができるということが分かりました。今では、腸内細菌で作ったカプセルも存在します。
そのほか、潰瘍性大腸炎などの消化管疾患、肥満や心疾患、腎疾患、神経疾患にも腸内細菌の書き換えが効果がある場合があることが分かっています。腸内細菌が、免疫反応や代謝反応、精神神経反応も制御しており、今後は腸内細菌はますます注目されることでしょう。