二つある腎臓にはそれぞれ100万個のネフロンというろ過単位がありますが、糖尿病性腎症で尿アルブミンが出現した場合には年間GFRが10ずつ落ちてゆき、約10年で透析になる病気でした。生理学的解剖学的な機序は、糸球体を取り巻く様々な細胞での解糖系側副路が細胞死や線維化、炎症を惹起するために起こるということが分かってきました。また、レニンアンギオテンシン系の賦活化により糸球体に輸入細動脈が拡張し輸出細動脈が収縮するために糸球体内圧が上昇して最終的にネフロン死につながるということもわかってきました。つまり、アルブミン尿を早期発見し厳格な血糖と血圧脂質管理とRAS系阻害薬投与で、糖尿病腎症の進展は妨げられるということです。最近では、顕性アルブミン期は回復させることができることが分かりました。現代では高齢化や生活習慣病から、アルブミン尿のない腎不全、すなわち糸球体以外の組織の障害から起こる腎不全で、腎硬化症に近い病態が糖尿病性腎症に含まれておりその数が増えてきています。
現在は、10年前では考えられなかったような糖尿病薬が出てきて、糖尿病の治療はかなりやりやすくなりました。血糖が厳格に管理できるようになり尿中アルブミンを減らすことができやすくなったからです。尿中アルブミンが減れば腎機能低下速度も遅くなります。糖尿病薬の一つであるSGLT2阻害薬などは、アルブミン尿がなくても腎機能低下速度を緩めることができるようになりました。ミネラルコルチコイド受容体をブロックすれば、血圧が下がらなくてもアルブミン尿をかなりへらすことができます。
現在の糖尿病性腎症は高齢化に伴っておこる様々な病態が修飾しており、血糖だけを治療ターゲットとするものではなくなってきました。