現代では、DNAの任意の部分を切断する技術がありノーベル賞を取っています。このゲノム編集技術は数十億もある生物のDNAの特定の配列だけを変化させる技術で、Cas9というDNA切断酵素と、ガイドRNAというCas9に標的となるDNAを導くRNAを用います。CRISPR/Cas9システムを用いるということですが、これはすでに現代高校生物でその内容を習います。ぼやぼやしていると医者でも高校生に後れを取ってしまいます。CRISPR/Cas9システムは、元々細菌・古細菌に存在する適応免疫システムの一つで、CRISPR RNA(crRNA)とトランス活性化型RNA(tracrRNA)が複合体を形成し、目的配列にCas9タンパクを誘導することにより、配列特異的なDNA切断を実現するものです。これはこれでとても面白いシステムですが、その内容はここでは述べません。一言で言うと、DNAを狙った場所で正確に切断することで、この仕組みを用いればゲノム情報を書き換えることができるようになるというわけです。
さて話はここからです。イージェネシス社などのバイオ企業が、「有害なブタ遺伝子」を除去し、「ヒトとの適合性を向上させるために特定のヒト遺伝子を追加」した遺伝子改変豚を開発しています。さらに、研究者らは、ゲノム編集技術CRISPRを使用して、豚の体内に存在する25のブタ内在性レトロウイルス(PERV)を不活性化することに成功しました。その技術を用いて、2024年にアメリカで腎不全の患者に遺伝子改変ブタの腎臓が移植されました。異種臓器移植は開発ができれば医学的にも経済的にも世界でイニシアチブをとれます。世界中で莫大な開発費をかけて研究されています。日本は、挑戦的で実験的な医療を好まない、外国に比べて研究に資金をあまり提供しないというような風土がありこの分野では研究は圧倒的に遅れています。
一方で、日本では遺伝子改変していないブタ胎児の細胞をヒト胎児に注射し、注射した場所にブタの腎臓を分化させるという研究などが進んでいます。尿は発生分化した腎臓周囲にたまるので穿刺して排液します。対象はポッター症候群で、生後しばらくして透析が可能になるまでの「つなぎ」としての腎臓を確保するための治療です。海外で研究されている移植手術は、完成した臓器を製品とするのですが、日本の研究は未熟な臓器を移植されたヒトの中で成熟させるという点が違います。外国とは違う方法でも臓器移植の発展性が期待されます。