本日はこの勉強をしたので、備忘録として残しておこうと思います。
大動脈弁狭窄症(AS)に対するTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)とSAVR(外科的大動脈弁置換術)の使い分け、および**早期介入・生涯管理(Lifetime Management)**への潮流です。
講演は4部構成(①ASの現状と課題 ②TAVI ③AS・TAVIの現状アップデート ④虚血性心疾患合併AS)。
① ASの現状と課題
- 増加する弁膜症:65歳以上の心不全新規発症は1950→2030年で約2.3倍に増加し、2030年には高齢者(65歳以上)が31.6%を占める見込み(Shimokawa, Eur J Heart Fail 2015)。日本の心不全原因疾患は高血圧心33%・虚血性心疾患28%・弁膜症25%(約1/4)・心筋症14%(JCARE-CARD)。心不全入院を要する弁膜症ではASが多くを占める。
- 罹患率:日本を含む37カ国データで、75歳以上のAS有病率は約13%と高い。
- 「無症状」の落とし穴:自分で「自覚症状なし」と申告したAS患者でも、実際には約半数が症状を有していた。問診の工夫が重要で、「散歩で立ち止まる」「外出が億劫」「トイレで動悸」「風呂掃除・洗濯物干しで息切れ」「階段で息切れが長引く」「坂道を避ける」「早足で胸痛」「失神」「靴下の跡(浮腫)」などを具体的に尋ねる。
- 聴診:頸動脈領域および大動脈領域(第2肋間胸骨右縁)で収縮期駆出性雑音を聴取。
- 予後:心エコーの圧較差が大きいほど進行が速く予後不良。心電図でストレイン所見があれば重症ASの可能性が高い。
② TAVI
- TAVI=Transcatheter Aortic Valve Implantation。開胸・人工心肺を要さず低侵襲で、短期入院・早期回復が可能、高齢者にも適応。術後1年の死亡または脳梗塞発症率は**SAVR 2.9%に対しTAVI 1.0%**と報告。
- アプローチ:総大腿動脈(TF-TAVI)が基本。上行大動脈直接(DA-TAVI)も選択肢。
- 診断〜治療プロセス:経胸壁/経食道心エコー・CT・心カテ・Frailty評価・併存疾患評価 → TAVI/SAVR/保存的治療を決定。
- 年齢の目安:ESC/EACTS 2021は75歳(>75でTAVI、<75でSAVR)、JCS 2020は80歳を基準(75〜80歳は個別判断)。
- 90歳代でも許容可:J-TVT 2013-2018では全15,028例中2,215例(14.7%)が90歳以上。30日成績・周術期成績は90歳未満と同等(1年死亡はHR 1.21とわずかに高い)。Heart Teamによる選別を前提に、QOL改善・症状緩和が主目的。
③ AS・TAVIの現状アップデート
ガイドラインは「早期介入」へ大きく舵を切っている。
- 年齢カットオフの引き下げ:ESC/EACTS 2025でTAVI基準年齢が75→70歳に引き下げ。本邦のJCS 2027でも適応が75歳へ拡大される見込み。
- 長期耐久性:バルーン拡張型TAVIの10年成績で全死亡回避率38.1%・心血管死回避率45.7%、弁機能不全(BVF)約10.8%と良好。
- 無症候性重症ASへの早期介入を支持する2大試験:
- AVATAR(早期SAVR、157例、平均67歳):主要評価項目(全死亡・MI・脳卒中・予定外心不全入院)が15.2% vs 34.7%、HR 0.46(p=0.02)。長期でも有益性が一貫。
- EARLY TAVR(早期TAVR、901例、平均76歳、低リスク):経過観察群では6カ月で約25%・1年で約50%が症状を呈して介入に至り、**約40%が予期せぬ急速な症状進行(緊急介入・入院)**を伴った。
- ESC/EACTS 2025の要点:三尖弁・解剖適合・経大腿可能なら70歳以上でTAVI推奨(Class IA)。無症候性・高gradient・LVEF保持の重症ASでも手技リスクが低ければ介入を考慮(Class IIa A)=watchful waitingからの明確な転換。CT石灰化スコア(女性>1200・男性>2000 AU)で重症度を判定。二尖弁ではTAVI推奨レベルは低い。
- 透析(HD)患者:ASの進行が速く(流速・圧較差・弁口面積の悪化が非透析より速い)、介入は突然死を予防する(Kawase, JAHA 2017)。一方で外科リスクは高い。最新のLAPLACE-TAVI 2025では、HD例の死亡率は約2倍だがフレイル・栄養(BMI/CFS/Alb)で調整すると有意差が消失=HDそのものよりフレイル・低栄養・血管病が予後を規定。早期紹介が重要。
- 脳塞栓保護デバイス(Sentinel CEP):PROTECTED TAVR・BHF PROTECT-TAVIの大規模RCTを統合しても、ルーチン使用は推奨されない(ESC/EACTS 2025も推奨せず)。
④ 虚血性心疾患(CAD)を合併したAS治療
- ACTIVATION:TAVI前のルーチンPCIは主要評価項目(死亡+再入院)で非劣性を示せず(p=0.067)、むしろ出血を増加(HR 1.66)。→ ルーチンPCIは推奨しない。
- TCW(Lancet 2024、172例、AS+複雑CAD):PCI+TAVI vs SAVR+CABGで、複合エンドポイントが4.0% vs 23.0%、HR 0.17(p<0.001)、死亡0% vs 10%、致死的出血2% vs 12%とPCI+TAVIが優越。ただし外科死亡10%と高い点・早期中止に留意。
- JROAD-DPC全国レジストリ(演者の論文, 2026):SAVR+CABGは施設件数が少ないほど院内死亡率が上昇(調整OR 2.067)するが、TAVR+PCIは施設件数と死亡率に有意な関連なし=より多くの施設で安全に実施可能。TAVR+PCI群は高齢(平均85歳)・高度フレイルでも良好な短期転帰・機能回復(Barthel Index)。ただし両群は別表現型で直接比較は不可。
- TAVI後の抗血栓療法(「DAPTからSAPTへ」):
- OAC適応なし → SAPT(アスピリン単剤)で十分。予防的OACの上乗せは無益〜有害(GALILEOは早期中止、POPular TAVI Aで出血減)。
- OAC適応あり(AF等)→ **OAC単剤(DOAC)**で管理し抗血小板は足さない。DOACはワルファリンに非劣性だが消化管出血に注意(ENVISAGE-TAVI AF)。
- 国循の実績:冠疾患科で2020-2025年にTAVI 761例、多診療科ハートチーム体制。2025年はCAG 1,329・PCI 740・TAVI 374件。
中心テーマはLifetime Management:患者の余命に応じて術式を選び、「次の一手(2回目の介入)」を見据えて初回手術を設計する考え方。
TAVRの位置づけと限界(外科医の視点)
- 国循データでのTAVR全死亡リスク因子:透析(HR 5.71)、PVL>mild-moderate(HR 2.45)、LVEF<40%(HR 1.75)、経心尖部アプローチ(HR 1.62)、加齢など。
- TAVRはデバイス進化・論文公表が頻繁で情報更新が必須。余命の短い症例は短期成績を優先。余命の長い症例ではTAV-in-TAVの可能性・PVLリスク・SAVR(特に19mm弁)の成績・弁輪拡大を考慮すべき。
SAVRと大動脈基部拡大
- 生体弁SAVR後の再手術(Redo SAVR / Root replacement / TAV-in-SAV)の成績は悪くない。平均70歳ではステント付生体弁で必ずしも弁輪拡大せずとも妥当なサイズ選択が可能。
- 将来のTAV-in-SAVを可能にするには、弁輪拡大というよりValsalva洞〜ST-Junction(STJ)の適切な拡大が重要。Y-incision(Yang法)で2〜3サイズアップが可能。
- 実際の手術動画を提示(71歳女性、severe AS、弁輪19mm/Valsalva 25mm/STJ 21mm → 21mm弁SAVR+Nick’s法、手術時間3:05・虚血時間1:02)。Longitudinal incisionによる基部拡大はMICSでも実施可能。
若年者への戦略:人工弁を避ける
- ESC/EACTS 2025でも年齢に応じた術式選択が示され、各術式に限界(技術的複雑さ、OACに伴う塞栓・出血リスク、耐久性)がある。
- Ross手術:北米で件数増加傾向。若年成人で生体弁AVRより遠隔成績が良好(10年/20年死亡 Ross 3.1%/9.6% vs BioAVR 9.7%/25.1%、HR 0.353)。
- 国循の若年(<65歳)SAVRは年齢・性をマッチさせた一般集団と同等の長期生存(10年92.4% vs 95.0%、p=0.899)。
- 国循では2022年以降、AR→弁形成術(AVP)、AS/形成困難なAR→Ross手術、さらに**Robotic AVR(MICS)**を展開。
術式選択の指針
- 高齢者:ADLを損なわないTAVRが第一選択。
- 10年以上の予後が見込まれる症例:2回目の手術を見据える(TAVR選択ならTAV-in-TAVが可能か、SAVR選択なら必要に応じ基部拡大を)。
- 20年以上の予後が見込まれる症例:できるだけ人工弁を使わない(ARには弁形成術、ASや形成困難なARにはRoss手術)。SAVRはロボット使用で低侵襲化できる。
講演全体のキーメッセージ
ASは無自覚のまま急速に進行しうる疾患で、診断は問診・聴診・心電図・心エコーを丁寧に組み合わせることが要。世界の潮流は**「症状が出る前・心筋障害が進む前に治す」早期介入へ移り、TAVIの適応年齢も引き下げられつつあります。治療選択は年齢だけでなく余命・解剖・フレイル・併存疾患を踏まえた個別化が重要で、内科・外科がHeart Team/Lifetime Management**の枠組みで「次の一手」まで見据えて設計することが、若年から高齢者まで最適化する鍵——という内容でした。
