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  • SGLT2阻害薬は心臓と腎臓を守る薬でも・・・

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2026.09.22

SGLT2阻害薬という薬があります。もともとは糖尿病の薬として登場しました。尿の中にブドウ糖を排泄することで、血糖を下げる薬です。

ところが、この薬を使っていると、どうもそれだけでは説明できないことが起こります。心不全を起こしにくくする。腎臓の機能が悪くなるのを遅らせる。そして、その効果は糖尿病の患者さんだけに限られているわけではありません。いったい、なぜなのでしょうか。

私は以前から、この薬を「利尿薬」という観点から考えてみると、少し分かりやすいのではないかと思っています。

高齢の患者さんを診ていると、下腿がむくんでいる人をよく見かけます。夕方になると靴下の跡がくっきり残っている。足首のあたりを押すと、へこんだ跡がしばらく残る。昔であれば、こういう患者さんには利尿薬を使うことがよくありました。

しかし、高齢者に利尿薬を長期間使うことには、なかなか難しいところがあります。水を出し過ぎれば脱水になります。血圧が下がることもあります。腎機能が変化することもあります。ナトリウムやカリウムなどの電解質の問題もあります。つまり、「むくんでいるから水を出せばよい」と単純にはいかないのです。

ところが、SGLT2阻害薬は少し違います。この薬は尿中にブドウ糖を排泄します。ブドウ糖が尿中に出れば、その浸透圧によって水も一緒に尿へ引っ張られます。いわゆる浸透圧利尿です。同時にナトリウムの排泄も増えます。つまり、体の中に余分に存在している水とナトリウムを、少しずつ外へ出していることになります。

では、これがなぜ心臓や腎臓に良いのでしょうか。ここからは少し想像を交えて考えてみたいと思います。

心臓も腎臓も、体の中では比較的硬い構造物の中にあります。心臓には心膜があります。腎臓にも、その周囲には被膜があり、さらに腎臓そのものは決して柔らかな袋のような臓器ではありません。

臓器の中に水分が増えれば、単純に考えて、その臓器の中の圧力は上がります。これは脳などではよく知られていることですが、臓器というものは、むくんだからといって外へ自由に膨らむことができるとは限りません。

そう考えると、心臓や腎臓に余分な水分が蓄積することは、単なる「むくみ」の問題ではなく、臓器そのものにとって負担になる可能性があります。

特に腎臓では、腎臓の中の圧力が上がれば、糸球体にも負担がかかります。糖尿病などで糸球体に過剰な圧力がかかると、最初の段階では血液検査でクレアチニンが正常であっても、尿中にアルブミンが出てくることがあります。

ここが重要なところです。

腎臓の機能が明らかに低下してから治療するのではなく、その前の段階で、すでに腎臓に何らかの負担がかかっていることが分かる場合があります。

実際、血清クレアチニンは正常なのに、尿中アルブミンが増えている患者さんがいます。このような患者さんに対して、糖尿病や脂質異常などの代謝異常を改善する治療を行い、SGLT2阻害薬を使用していると、尿中アルブミンが正常化してくることがあります。

これはなかなか興味深いことです。

腎臓の機能が悪くなってから、それを治療しているのではありません。腎臓の機能が悪くなる前に、腎臓にかかっている負担を減らしているのかもしれないのです。

SGLT2阻害薬には、もう一つ重要な作用があります。この薬を使うと、腎臓の尿細管に届くナトリウムが増えます。すると腎臓は、「今まで少し働きすぎていたのではないか」と判断するような反応を起こし、糸球体の過剰濾過を抑えます。

つまり、腎臓に流れ込む血液を単純に減らしているというより、腎臓の中でかかっていた過剰な圧力を調整しているわけです。

そう考えると、SGLT2阻害薬を「血糖を下げる薬」とだけ考えるのは、少しもったいないように思えてきます。

また、心不全では、単純に心臓のポンプ機能だけが問題なのではありません。体の中にナトリウムと水が蓄積すると、静脈の圧力が上がります。その結果、腎臓にも負担がかかります。腎臓から水を出しにくくなり、さらに体に水がたまる。そうすると、また心臓に負担がかかる。心臓と腎臓は、このように互いに影響し合っています。いわゆる心腎連関です。

そう考えてみると、SGLT2阻害薬が心臓と腎臓の両方を守ることも、少し理解しやすくなります。体の中に余分に蓄積したナトリウムと水を、比較的穏やかに排泄する。腎臓の糸球体にかかっている過剰な圧力を抑える。そして、心臓と腎臓の間で起こっている悪循環を、少しずつ断ち切る。

もちろん、SGLT2阻害薬の作用がこれだけで説明できるわけではありません。心臓や腎臓を保護する仕組みについては、さまざまな機序が考えられています。しかし、私は「水と圧力」という観点から考えると、この薬の働きが少し分かりやすくなるように思います。

そして、ここで一つ疑問が出てきます。

SGLT2阻害薬は、心不全になってから使う薬なのでしょうか。腎機能が低下してから使う薬なのでしょうか。

もし、心臓や腎臓に明らかな障害が起こるもっと前の段階から、体の中に余分に蓄積するナトリウムや水を少しずつ減らし、腎臓の糸球体にかかる圧力を抑えることができるのであれば、それは「治療」というより「予防」に近いのではないでしょうか。

実際、現在ではSGLT2阻害薬は、糖尿病だけではなく、慢性腎臓病や心不全の患者さんに対しても使用されるようになっています。そして、その適応は次第に広がっています。

これは、病気になってから治療するという従来の考え方から、病気が進行する前に臓器を守るという考え方へ、少しずつ医学が変わってきているということなのかもしれません。

血液検査ではクレアチニンが正常であっても、尿中アルブミンが増えている。まだ心不全とは診断されていないけれど、以前よりむくみやすくなっている。そういう段階で、体の中ではすでに何かが始まっているのかもしれません。

そう考えると、SGLT2阻害薬は「心不全や腎不全になった患者さんに使う薬」ではなく、そのもっと手前から心臓と腎臓を守るために使う薬になる可能性があります。

もちろん、誰にでも予防目的で投与すればよいということではありません。脱水や感染症などの副作用もありますし、食事が取れないときや強い脱水状態などでは注意が必要です。

しかし、SGLT2阻害薬という薬を眺めていると、私はどうしてもこの疑問を持ってしまいます。

「病気になってから臓器を治療するのではなく、病気になる前に臓器にかかっている負担を減らしておくことはできないのだろうか。」

もしそれが可能だとすれば、SGLT2阻害薬は、糖尿病治療薬という枠を超えて、心臓と腎臓を長く守るための薬になっていくのかもしれません。

そして、これからの医学では、「病気があるか、ないか」という二つに分けるのではなく、その間にある「まだ病気とは呼べないけれど、臓器にはすでに負担がかかっている時期」を、どのように見つけ、どのように介入するかが重要になってくるのではないでしょうか。

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