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「京大 驚きのウイルス学講義」を読んで

2021.12.04

ウイルスは世界を飛び回っており遺伝子は変化するので、いつ動物のウイルスが流行するかわかりません。例えば麻疹ウイルスは、およそ紀元前6世紀に牛から人間に感染しましたが、現代ではワクチンによって制御されつつあります。麻疹ウイルスが少なくなれば近縁のイヌジステンパーウイルスが流行る可能性が高いそうです。MARSやHIVなども、もとは動物のウイルスです。私は東南アジアの病院に勤めていた時にデング熱患者をたくさん診ましたが、これももとは動物由来です。今回のコロナはコウモリ由来と考えられ、人間への新興感染症という認識がありますが、実は毎年数個の新興ウイルスが現れています。たまたま広がらなかったり勝手に消えて行ったりしているので顕在化していないだけなのです。今回のコロナウイルス感染症は様々な理由でパンデミックとなりました。変異コロナウイルスも広まったように見えますが、同じ遺伝子変化が世界のあちこちのコロナで異所同時性に発生しているのかもしれません。過去には別の生物でそのような例が認められています。渡航制限で変異コロナウイルスの流行を防ぎきれるとは限らないのです。
さてここからはウイルスの話です。
ウイルスは一本鎖や二本鎖のRNAやDNAを持ち、タンパク合成のために必要なリボソームを持っていません。生きた細胞の中でしか増殖できません。すべてのウイルスの物質量を炭素量で換算すると、地球全体で人類全体の炭素量よりも重くなります。実は膨大なウイルスが地球には存在しているのです。ほとんどが未知のウイルスです。
DNAウイルスは、細胞に感染した後はセントラルドグマにしたがってタンパク合成し複製します。多くは二本鎖DNAを持ち、相補的な鋳型があるため遺伝情報が安定しています。一方、RNA ウイルスの多くは一本鎖であるため遺伝情報が安定しません。しかし頻繁に変化することができます。RNAウイルスの中には、RNAを逆転写し宿主の遺伝情報を書き換えてしまうものがあります。逆転写するので「レトロ」ウイルスと称されました。レトロウイルスが感染すれば体細胞の遺伝情報が変に書き換えられて癌化することもあるでしょう。もし生殖細胞に感染すれば、その遺伝情報はすべての体細胞に受け継がれます。前者の代表として我々医師になじみが深いのは成人Tcell白血病であり、後者は生物の進化そのものに関係します。ヒトの遺伝情報のうちで、タンパク合成にかかわる遺伝子は全体の1.5%しかなく、残りの89.5%は何をしているのかほとんどわかっていません。ところがこの中の遺伝子に、古代哺乳類が感染したレトロウイルス由来の遺伝子が含まれていることが分かっています。ヒトでは遺伝子全体の9%にあたる量です。レトロウイルス由来の遺伝子(内在性レトロウイルス)で逆転写をコードする遺伝情報が残っているものは、ヒトのDNAにトランスポジションやトランスポゾンを起こすことができます。これが進化に関係するというわけです。また、内在性ウイルスがエンベロープをまとって外に飛び出せばそのままウイルスとなりえます。外から感染した別のウイルスが、内在性ウイルスの遺伝子をリコンビネートすることで古代に感染したウイルスが復活することもあり得ます。ウイルス同士も、感染した細胞内で遺伝子の交換を行い、変化しながら感染し続け生存を図っています。
生物もウイルスを利用し、逆もしかり。ウイルス同士も共同や競争をし、変化し続けることでしか生き残ることができません。その過程で病原性を持つようになったり感染力が変わったりするわけです。
さてここからはかなり端折りますが、レトロウイスの働きとし目立つ例を挙げると、胎盤の形成です。哺乳類にある遺伝子を提供し胎盤が形成されました。このことにより哺乳動物の優位性が確立されたのです。また内在性レトロウイルスが、一部の病原性レトロウイルスの感染を防ぐことも確実視されています。宿主遺伝子の発現調節も担っています。そのほかにも生物は内在性レトロウイルスの遺伝子配列を使って体のタンパクを作り出すこともありました。また、宇宙線や紫外線などの自然変化の影響で遺伝子のレトロトランスポゾンが活性化することが分かっています。つまり自然環境の変化で進化が加速する部分があるということです。哺乳動物はその進化の過程で初期にはレトロウイルスを積極的に利用していましたが、現在では制御することで進化を調整しているらしいのです。遺伝子変化は生存よりも死亡の可能性のほうがずっと高く、ミュータントはほぼ死にます。中には成功する変異もあり、うまく調整できれば進化につながるのです。同じようなウイルスによる遺伝子変化は昆虫類や魚類、植物などあらゆる生物の進化に共通しており、おそらく生物の絶滅にも関与しています。

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